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名古屋高等裁判所 平成9年(ネ)563号 判決 1998年7月08日

控訴人

関口房朗

右訴訟代理人弁護士

堀内節郎

角田雅彦

被控訴人

株式会社メイテック

右代表者監査役

水谷元彦

右訴訟代理人弁護士

堤淳一

林光佑

堀龍之

石田茂

山根尚浩

石黒保雄

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人の訴えを却下する。

三  訴訟の総費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成八年七月三一日午前一〇時に開催した被控訴人取締役会(以下「本件取締役会」という。)においてなされた原判決別紙「決議事項」記載の決議(以下「本件決議」という。)はすべて無効であることを確認する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  (主位的答弁)

(一) 原判決を取り消す。

(二) 控訴人の訴えを却下する。

2  (予備的答弁)

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

控訴人は、(1) 被控訴人に対し、控訴人を被控訴人の代表取締役社長から解任する旨の決議を含む本件取締役会における本件決議が無効であるとして、①本件決議が無効であることの確認、②控訴人の本件決議がなければ代表取締役として得ていたであろう報酬額と本件決議後に実際に受領した取締役報酬額との差額金及び遅延損害金の支払、(2) 本件決議を議決した取締役である大槻三男ほか九名に対し、慰藉料及び遅延損害金の支払をそれぞれ請求する訴えを名古屋地方裁判所に提起した(名古屋地方裁判所平成八年(ワ)第四〇九〇号)。

同裁判所は、右(1)①の請求を分離し、同請求を棄却する旨の本案判決を言い渡したのに対し、控訴人が控訴したのが、本件である。

二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり当審主張を付加するほか、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  本案前の主張

(一) 控訴人

(1) 本件決議は無効であるから、平成九年六月二七日に開催された被控訴人の第二四回定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)時における被控訴人の代表取締役は控訴人であり、大槻三男ではない。しかるに、本件株主総会は、大槻三男により招集されて議事進行が行われたのであるから、本件株主総会の決議は招集の手続及び決議方法に瑕疵がある(控訴人は、提訴期限内に、右株主総会決議の取消訴訟(名古屋地方裁判所平成九年(ワ)第三五六八号事件)の訴訟を提起済みである。)。

本件請求が認容された場合、本件株主総会における取締役選任決議も連鎖的に取り消されるべきものとなるから、本件訴訟における即時確定の訴えの利益がある。

(2) 被控訴人の定款に取締役の任期は就任後二年内の最終の決算期に関する定時株主総会終了の時までとする旨の規定があったとしても、本件株主総会の決議が取り消された場合、本件株主総会において選任された取締役の選任はすべてなかったことになり、商法二五八条、二六一条により、控訴人を含む本件株主総会前に取締役であった者は、本件株主総会の終結時をもってその任期が満了するのでなく、新たに正当に取締役が選任され就職するまでの間、取締役または代表取締役としての権利義務を有することになる。

したがって、本件株主総会の終結をもって本件訴訟の訴えの利益を失ったということにはならない。

(二) 被控訴人

被控訴人の定款には、取締役の任期は就任後二年内の最終の決算期に関する定時株主総会終了の時までとする旨の規定があるところ、控訴人は、本件株主総会終結の時をもって、任期満了により取締役を退任した。

したがって、仮に、本件訴訟により本件取締役会における本件決議の無効が確認されたとしても、控訴人は、現在、取締役会においてなされるべき法律関係の形成に資する立場にないから、本件訴訟は訴えの利益を欠き、却下されるべきである。

2  本案の主張

(1) 控訴人

(1)① 原審は、ア 取締役は、会社の日常的な業務執行にあたり、取締役会に出席の上、意思決定に必要な事項に関し臨機応変に経営的専門的な判断を下すべき債務を負っているのであるから、取締役会において会社の業務に関する事項に関し、いつ、いかなる提案、動議がなされたとしても、各取締役は必要な討議、議決を行い得るし、また、これを行うべき義務がある、イ 取締役は取締役会の会議の目的たる事項とは関係なく、取締役会に出席する責務を有し、有効適切に監督権を行使することが期待されていることを理由にあげて、取締役会に関する事項について、定款をもって取締役会規定によることを定め、同規程により、取締役会招集通知は会議の目的を記載した書面で行うことが定められている場合でも、取締役会における決議内容を拘束する効力を有するものではないと解するのが相当であり、濫用的な場合を除き、招集通知に記載されていない事項が取締役会で審議・議決されたとしても、当該決議は違法とならないものというべきであり、本件決議事項が議題として招集通知に記載されていなかったことをもって、本件決議に瑕疵があるというものということはできないと判断した。しかし、原審の右判断は誤りである。

② すなわち、右アは、いわゆる三越事件にかかる東京地裁平成二年四月二〇日判決と同旨の説示内容であるところ、右三越事件では、本件と異なり、定款あるいは定款により授権された取締役会規定では、取締役会の招集通知が会議の目的事項を記載した書面をもって行うこととされていなかったものである。

③ また、右イについても、会社法の構成、会社自治、取締役会の適法かつ適正な運営の観点等を十分に吟味するときには、取締役は、臨機応変に経営的専門的な判断を下すべきという結論を演繹できるできるものではない。

(2) 原審は、取締役会における決議の方法は、会議体として公正妥当なものでなければならないとしながら、本件取締役会における決議が公正妥当であるか否かを判断するにあたっては、本件取締役会において取締役全員の質疑を求めたり異議を述べたりする機会が不当に奪われたものと認めることはできないと判断した。

しかし、原審の右判断は、極めて形式的であり、具体的経過事実についての誤認に基づいている。

(二) 被控訴人

控訴人の右本案の主張は争う。

第三  証拠関係

原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  本案前の主張―確認の訴えの利益の有無について

1  甲第一号証及び弁論の全趣旨によると、次の経過事実が認められ、他に、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 平成八年七月三一日に開催された本件取締役会において、控訴人を被控訴人の代表取締役社長から解任する旨の決議及び大槻三男を被控訴人の代表取締役社長に選任する決議を含む本件決議がされた(ただし、控訴人は、本件訴訟において、右解任決議を含む本件決議が無効であることの確認を請求している。)

(二) 控訴人の被控訴人代表取締役の辞任及び大槻三男の同代表取締役の就任の各登記がなされた。

(三) 被控訴人の定款一八条一項は、取締役の任期は、就任後二年内の最終の決算期に関する定時株主総会終了の時までとすると規定し、同二項は、補欠または増員により選任された取締役の任期は、他の取締役の任期の満了すべき時までとすると規定している。

(四) 大槻三男の招集により平成九年六月二七日に開催された本件株主総会において、右定款規定による各取締役の任期満了予定に伴い、大槻三男、西本甲介及び上坂裕を被控訴人の取締役に選任する旨の決議案が上程され、承認可決された(ただし、控訴人は別件である名古屋地方裁判所平成九年(ワ)第三五六八号事件の訴訟において、本件株主総会における右決議の取消しを請求している。)が、控訴人、関口啓貴及び堀充徳の三名を被控訴人の取締役に選任する旨の決議案は否決された。

(五) 平成九年六月二七日に開催された被控訴人の取締役会において、大槻三男を被控訴人の代表取締役社長に、西本甲介を被控訴人の専務取締役に、上坂裕を被控訴人の常務取締役にそれぞれ選任する旨の決議がされた。

(六) 右大槻、西本及び上坂の被控訴人の代表取締役及び取締役の各就任の登記がなされた。

2  ところで、確認の訴えの利益は、原告の権利または法律的地位に危険・不安定が現存し、かつ、その危険・不安定を除去する方法として原告(本件では控訴人)・被告(本件では被控訴人)間に当該判決をすることが有効・適切である場合に認められるから、確認の訴えの対象は、原則として現在の権利または法律関係でなければならないと解される。

これを本件について見るに、本件決議の無効確認を請求する控訴人の訴えは、決議の無効という過去における法律関係の確認を求めるものであることは明らかである。もっとも、過去の法律関係の確認でも、現存する紛争の直接かつ抜本的な解決のために有効・適切かつ必要と認められるような場合には、確認の利益が認められると解するのが相当である。

そこで、控訴人の主張するところからは、解決すべき現存する紛争として、①本件株主総会における取締役選任決議の瑕疵の有無、②控訴人の本件決議により解任されなければ存続しているはずの代表取締役の地位の有無、及び、③控訴人の本件決議により解任されなければ得ていたであろう代表取締役報酬の存否が考えられるので、以下、本件決議の無効確認の訴えがこれらの紛争の直接かつ抜本的な解決のために有効・適切かつ必要と認められるか否かを検討する。

3 本件株主総会における取締役選任決議の瑕疵の有無にかかる紛争について

なるほど、仮に、本件取締役会における本件決議が無効であるとすれば、本件株主総会時における被控訴人の代表取締役社長は大槻三男ではなく、控訴人であるのにもかかわらず、本件株主総会は、大槻三男により招集されて議事進行が行われたのであるから、本件株主総会の決議は、招集の手続及び決議方法に瑕疵があり、取り消し得べきものとされる可能性があるといえる。

しかしながら、控訴人の後任の代表取締役が選任され、その就任登記がなされれば、控訴人が代表取締役として被控訴人の業務執行に関与することは現実的にはなくなるといえるから、本件取締役会における本件決議の瑕疵を単独で問題にする直接・現実的な利益は失われるといわざるを得ないところ、前記(1(二))認定事実のとおり、平成八年七月三一日付けの控訴人の被控訴人代表取締役の辞任及び大槻三男の同代表取締役の就任の各登記がなされている。そして、これに、本件株主総会における取締役選任決議に取り消すべき瑕疵があったとしても、右株主総会決議が判決手続により取り消され、かつ、右判決が確定して初めて、その取消しの効果も発生することを併せ考えると、本件株主総会における取締役選任決議の瑕疵をめぐる法律関係の不安定を除去するには、控訴人において、本件取締役会における本件決議の無効の事実を前提として、本件株主総会における取締役選任決議の取消請求の訴訟を直截に提起すれば足り、また、かかる方法が有効・適切であるというべきである。

そうすると、本件取締役会における決議の無効確認の請求に本件株主総会の選任決議の取消請求が併合されているような場合は格別として、本件株主総会の選任決議を直截に問題にすることなく、本件取締役会における決議の無効確認のみを求める訴えは、本件株主総会における取締役選任決議の瑕疵にかかる紛争を直接かつ抜本的に解決するために有効・適切かつ必要であるとは認めることはできない。

4 控訴人の本件決議により解任されなければ存続しているはずの代表取締役の地位の有無にかかる紛争について

前記(1(三))認定のとおり、被控訴人の定款は、取締役の任期は、就任後二年内の最終の決算期に関する定時株主総会終了の時までとすると規定しているから、控訴人の本件決議により解任されなければ存続しているはずの代表取締役としての地位も、本件株主総会の終了をもって取締役としての地位が終了したのに伴い、消滅したというべきである。

この点について、控訴人は、仮に、本件取締役会における本件決議が無効であるとすれば、本件株主総会の決議は、取り消し得べきものとされる可能性があるところ、本件株主総会の決議が取り消された場合、本件株主総会において選任された取締役の選任はすべてなかったことになり、商法二五八条、二六一条により、控訴人を含む本件株主総会前に取締役であった者においては、新たに正当に取締役が選任され就職するまでの間、取締役または代表取締役としての権利義務が継続するとされる連鎖的事象の発生の可能性がある旨主張するので、検討する。

なるほど、控訴人の主張する右連鎖的事象が発生する可能性は一応肯認し得る。

しかしながら、控訴人の取締役または代表取締役としての権利義務が継続することになるとしても、その効果も右株主総会決議における取締役選任決議が判決手続により取り消されて初めて、発生することに鑑みると、控訴人の代表取締役としての地位の存否をめぐる法律関係の不安定を除去するには、控訴人において、本件株主総会における選任決議の取消請求の訴訟を直截に提起すれば足り、また、かかる方法が有効・適切であるというべきである。

そうすると、本件株主総会の選任決議を直截に問題にすることなく、本件取締役会における決議の無効確認のみを求める訴えは、控訴人の代表取締役としての地位にかかる紛争を直接的かつ抜本的に解決するために有効・適切かつ必要であるとは認めることはできない。

5 控訴人の本件決議により解任されなければ得ていたであろう代表取締役報酬の存否にかかる紛争について

控訴人の本件決議により解任されなければ得ていたであろう代表取締役報酬の存否をめぐる法律関係の不安定があるとしても、本件決議の無効を前提問題として、右代表取締役報酬の給付訴訟ないし確認請求を提起すれば足り、また、かかる方法が有効・適切であるというべきである。

そうすると、右代表取締役報酬の給付訴訟ないし確認請求を直截に提起することなく、本件取締役会における決議の無効確認のみを求める訴えは、代表取締役報酬の存否にかかる紛争を直接的かつ抜本的に解決するために有効・適切かつ必要であるとは認めることはできない。

6 したがって、本件決議の無効確認のみを求める控訴人の本件訴えに、確認の利益があるとはいえない。

二  以上によれば、控訴人の本件訴えは、訴えの利益を欠くから、却下すべきである。

第五  結論

よって、原判決を取り消し、本件訴えを却下することとし、訴訟の総費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官寺本榮一 裁判官矢澤敬幸 裁判官後藤隆)

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